現在社畜の掌編とエッセイ

思いつくままに頭の中身を偏らない視点を意識しながら掌編やエッセイとして出力します。

きゅんきゅんしたちゅーずでぃ

 

 今日は凄い日だった。

 

 あの、スーパーチューズデイに負けないほど私の人生に影響を与える一日だった。

 

 そう、きゅんきゅんしてしまったのだ。

 

 いい歳して、きゅんきゅん。だなんて恥ずかしい奴。と思われる方もいるかもしれない。その意見ももっともである。きゅんきゅん。なんて小学生、いや、中学生くらいまで出終わりにしたいところだ。でも、どうしようもないじゃないか。きゅんきゅんしてしまうものは。誰にだって止めることはできない。唯一、止めることのできる権利を持っているのは、目の前の彼女だけだ。

 

 いつの間にか、日が落ちるのが早くなった。秋はつるべ落とし。そんなことを思い出させる夕暮れの時間、私は座っていた。椅子の上で楽な姿勢をとっている。覗き込むように彼女が私を見つめている。何も語らない。無口のままで彼女の職務を果たしている。

 

 二人の間には殺気にも似た緊張感がある。溜息すらつくことはできない。私は動作することを放棄して、口をポカンと開いたまま、彼女の一挙一動に神経を尖らす。

 

そうだ。私は神経を尖らしている。全身を張り詰める緊張が、私の体を硬直させている。しかし、どうすることもできないのだ。複雑な、感情が、あの甘く蕩けるアイスクリームを憎む気持ちが、余計な言葉を発するのを禁止している。自ら動くことは許されない。彼女を信じる気持ちが大事だと。

 

彼女が動くと同時に痛みが走った。今までに経験したことの無い痛みだ。頭蓋骨にきゅんきゅんと言う音が響き渡り残響しているかのようだ。苦しみのあまり反射的に拳を握る。そんなことはあり得ない。この年齢になってきゅんきゅんなど恥ずかしい。幻聴を聞いているに違いない。そう思い込もうとするが、現実には逆らうことができない。

 

目を見開き彼女に私は訴えかける。すると、彼女は私の視線に気づく。

 

「痛かったら手を挙げてください!」

 

言われて手を挙げるが、「我慢してください」で終わってしまう。なんてこった。あの時、チョコレートを食べて歯を磨かなかったのが悪かったに違いない。こんな歳になって虫歯になるなんて。後悔しながら、女性歯医者の手に運命を委ねた。

 

 了