路面電車
空には蜘蛛の巣が張り巡らされていた。飛んでいこうとする私を閉じ込めるように隙間が無い。
もし、私が蜘蛛ならば電線の上を歩けるだろうか。
どの線が通り道たる縦糸なのか、見分けることができるだろうか。
両手を空に伸ばしてみる。
ジャンプして掴もうとする。
届かないと知っていながら、所詮、羽を持たない蟻と気づきながら、無駄な努力を繰り返す。
でも、それでも構わないと思う。
飛ぼうと願わなければ翼は生えない。
諦めて立ち止まっているだけならば、絶対に前には進まない。
数秒だっていいんだ。
一歩だっていいんだ。
私は歩み、跳ぶ。
もし、疲れたときは、路面を進む電車に乗ろう。隣にカオナシが乗っていても恐れる必要は無い。襲ってくることはありえないのだ。不安になれば、深呼吸をすれさ。怖くは無いから。窓の外を眺めていれば、疲れた心も安らぐだろうし。
微かに、匂った。
海の匂いだ。磯の、塩分をたっぷりと含んだ親潮の香りだ。街が霧に包まれようとし、故郷の景色を伝えてくるよう。鳴らされたクラクションの音を聞かない振りして両手を伸ばし、私は何度も飛び跳ね続けた。
了